1.5章で「この結果は信じてよい」と判断できたら、次にやるべきは指標を読むことだ。指標とは、CFD解析が出力する数値・分布のうち、設計判断に使う「ものさし」である。代表的な5つの指標について、それぞれ何を見て、どう良し悪しを判断するかを、貫通ケースを使って一つずつ確認する。
最大温度──まず見るが、これだけでは判断できない
最大温度は最も直感的な指標だが、これだけで判断すると0章のBさんと同じ失敗に陥る。最大温度を見るときに必ず併せて確認すべきは、「どこで」「許容温度との差はいくつか」の2点である。
① 完全な解答例温度差(ΔT)──「全体が均一に高いか」「一点だけ高いか」を見分ける
温度差は、最大温度と基準点(周囲温度、または筐体表面の代表点)との差を指す。最大温度と平均温度の差が大きいほど、熱が一点に集中している(局所的なボトルネックがある)ことを示す。逆に最大温度と平均温度の差が小さければ、筐体全体がまんべんなく高温化している可能性があり、対策の方向性が変わる。
① 完全な解答例熱流束──「どこから、どれだけの熱が流れているか」を面で見る
熱流束(W/m²)は、単位面積あたりにどれだけの熱が流れているかを示す。温度分布だけでは見えない「熱の量」を可視化できるため、複数の放熱経路がある場合に、どの経路がどれだけ熱を運んでいるかを比較するのに使う。
② 穴埋め演習この熱流束分布から、あなたなら次の空欄をどう埋めるか考えてみてほしい。「上面の熱流束は[ ① ]W/m²、側面は[ ② ]W/m²であり、[ ③ ]面が主要な放熱経路として機能している。したがって、放熱を強化する対策は[ ③ ]面に対して行うのが効果的である。」
流速──筐体内部の空気がどう動いているかを見る
流速は、自然対流・強制対流いずれの設計でも、空気がどこを流れ、どこで滞留しているかを把握するための指標である。流速が極端に遅い、あるいはゼロに近い領域は、対流による熱輸送がほとんど機能していない「死水域(デッドゾーン)」である可能性が高い。
貫通ケースの筐体内部には、主要IC周辺に流速がほぼゼロの領域が存在する。この死水域がどこにあり、なぜそこで流れが滞っているのか、これまでの熱経路の考え方(1章)と合わせて自分なりに仮説を立ててみてほしい。第II部(b)で、この仮説を診断プロセスに沿って検証していく。
圧力損失──強制対流がある場合に確認する指標
圧力損失は、ファンなどの強制対流を伴う設計で重要になる指標である。流路の途中で圧力損失が大きい箇所があると、その分ファンの実際の風量が設計値より下がり、想定していた冷却性能が出なくなる。貫通ケースは自然対流設計のため圧力損失は主要指標ではないが、もしこの筐体にファンを追加する設計変更を検討する場合は、フィン間や開口部の圧力損失を必ず確認する必要がある。
5指標の判断基準まとめ
| 指標 | 何が分かるか | 良い・悪いの基本判断 |
|---|---|---|
| 最大温度 | 最も厳しい点の絶対値 | 許容温度との差分で判断。単独では位置・原因が分からない |
| 温度差 | 熱の集中度 | 差が大きいほど局所対策、小さいほど全体対策が有効 |
| 熱流束 | 経路ごとの熱の量 | 値が大きい経路ほど改善のリターンが大きい |
| 流速 | 空気の動き・死水域の有無 | 速さ単独でなく、発熱源との接触状況で判断 |
| 圧力損失 | 強制対流の実効性 | 損失が大きいと設計風量が確保できない |
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5つの指標を読み、貫通ケースでは「主要IC周辺に熱が集中し(温度差34℃)、その周辺で流速がほぼゼロの死水域が存在する」という状況が見えてきた。次の(b)では、この観察結果から、なぜそうなっているのか、どこが本当のボトルネックなのかを診断するプロセスに進む。