第II部(a) — 解析結果を読み解き、設計を動かす

指標を読む

貫通ケース

本講座の第II部では、架空のLiDARセンサー筐体(車載用、外形120×80×40mm、内部に発熱量18Wの基板を搭載)の熱解析結果を、(a)(b)(c)の3節を通して使い続ける。許容温度は基板上の主要IC接合部で95℃。ファンなし、自然対流+筐体表面からの放熱で冷却する設計である。

1.5章で「この結果は信じてよい」と判断できたら、次にやるべきは指標を読むことだ。指標とは、CFD解析が出力する数値・分布のうち、設計判断に使う「ものさし」である。代表的な5つの指標について、それぞれ何を見て、どう良し悪しを判断するかを、貫通ケースを使って一つずつ確認する。

最大温度──まず見るが、これだけでは判断できない

最大温度は最も直感的な指標だが、これだけで判断すると0章のBさんと同じ失敗に陥る。最大温度を見るときに必ず併せて確認すべきは、「どこで」「許容温度との差はいくつか」の2点である。

① 完全な解答例
[CFD画像プレースホルダー:LiDAR筐体内部の温度分布図。主要ICの接合部周辺が最も高温(赤)で表示され、カラーバーに95℃のラインが分かるように示されている。想定する見え方:最大温度102℃の位置が主要IC上に明確に確認できる]
この貫通ケースでは、最大温度は主要IC接合部で102℃。許容温度95℃を7℃超過している。「102℃でした」だけでなく「許容温度95℃に対して7℃超過」まで言えることが、この指標を正しく読んだ状態である。

温度差(ΔT)──「全体が均一に高いか」「一点だけ高いか」を見分ける

温度差は、最大温度と基準点(周囲温度、または筐体表面の代表点)との差を指す。最大温度と平均温度の差が大きいほど、熱が一点に集中している(局所的なボトルネックがある)ことを示す。逆に最大温度と平均温度の差が小さければ、筐体全体がまんべんなく高温化している可能性があり、対策の方向性が変わる。

① 完全な解答例
貫通ケースでは、最大温度102℃に対し、筐体内部の平均温度は68℃。差は34℃と大きく、熱が主要IC周辺に強く集中していることが読み取れる。これは「ボトルネックが特定箇所にある」サインであり、筐体全体を冷やす対策(例えば外装全体の放熱性向上)よりも、IC周辺の局所対策が効果的だと判断できる。

熱流束──「どこから、どれだけの熱が流れているか」を面で見る

熱流束(W/m²)は、単位面積あたりにどれだけの熱が流れているかを示す。温度分布だけでは見えない「熱の量」を可視化できるため、複数の放熱経路がある場合に、どの経路がどれだけ熱を運んでいるかを比較するのに使う。

② 穴埋め演習
[CFD画像プレースホルダー:筐体表面の熱流束分布図。上面と側面で熱流束の値が異なって表示されている。想定する見え方:上面の熱流束が側面の熱流束より明らかに大きい(または小さい)配色]

この熱流束分布から、あなたなら次の空欄をどう埋めるか考えてみてほしい。「上面の熱流束は[ ① ]W/m²、側面は[ ② ]W/m²であり、[ ③ ]面が主要な放熱経路として機能している。したがって、放熱を強化する対策は[ ③ ]面に対して行うのが効果的である。」

考え方のヒント:熱流束が大きい面は「すでによく機能している経路」であると同時に、「ここを改善するとリターンが大きい経路」でもある。逆に熱流束が小さい面は、まだ使われていない放熱の余地が残っている可能性がある。どちらに着目すべきかは、改善のコストとリターンで第II部(c)で判断する。

流速──筐体内部の空気がどう動いているかを見る

流速は、自然対流・強制対流いずれの設計でも、空気がどこを流れ、どこで滞留しているかを把握するための指標である。流速が極端に遅い、あるいはゼロに近い領域は、対流による熱輸送がほとんど機能していない「死水域(デッドゾーン)」である可能性が高い。

注意:「流速が速い=よく冷える」という直感は、必ずしも正しくない。流速が速くても、その空気が発熱源に接していなければ冷却に貢献しない。流速を見るときは、必ず「その流れが発熱源・放熱面のどこに接しているか」までセットで確認する。
③ 自力演習

貫通ケースの筐体内部には、主要IC周辺に流速がほぼゼロの領域が存在する。この死水域がどこにあり、なぜそこで流れが滞っているのか、これまでの熱経路の考え方(1章)と合わせて自分なりに仮説を立ててみてほしい。第II部(b)で、この仮説を診断プロセスに沿って検証していく。

圧力損失──強制対流がある場合に確認する指標

圧力損失は、ファンなどの強制対流を伴う設計で重要になる指標である。流路の途中で圧力損失が大きい箇所があると、その分ファンの実際の風量が設計値より下がり、想定していた冷却性能が出なくなる。貫通ケースは自然対流設計のため圧力損失は主要指標ではないが、もしこの筐体にファンを追加する設計変更を検討する場合は、フィン間や開口部の圧力損失を必ず確認する必要がある。

5指標の判断基準まとめ

指標何が分かるか良い・悪いの基本判断
最大温度最も厳しい点の絶対値許容温度との差分で判断。単独では位置・原因が分からない
温度差熱の集中度差が大きいほど局所対策、小さいほど全体対策が有効
熱流束経路ごとの熱の量値が大きい経路ほど改善のリターンが大きい
流速空気の動き・死水域の有無速さ単独でなく、発熱源との接触状況で判断
圧力損失強制対流の実効性損失が大きいと設計風量が確保できない

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5つの指標を読み、貫通ケースでは「主要IC周辺に熱が集中し(温度差34℃)、その周辺で流速がほぼゼロの死水域が存在する」という状況が見えてきた。次の(b)では、この観察結果から、なぜそうなっているのか、どこが本当のボトルネックなのかを診断するプロセスに進む。

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